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なんとなくだが、彼女の雰囲気的に、どうやらトイレに向かおうとしているわけでは無さそうだった。
「これから、日課を始めるところ」
淡白な調子で答えながら、彼女は鏡台の引き出しを開けた。
その中から何かを取り出して、台の上に乗せると…………。
リンドウは、小さく何かを呟いた。
口にした言葉は、一言、二言。
淀みなく彼女の口から言葉が紡ぎ出されると、急に、彼女の手元に小さな火が灯った。
その火の光りは、自らが持つオレンジ色の明るさをもって、この部屋の暗闇を遠ざけた。
一瞬、俺は突然灯った明かりに目を眇(すが)めた。
思わず顔を背けながらも、少しずつ、俺はリンドウの灯した明かりに目を慣らしていくと……。
俺の目の前には、火の灯った火取り皿があった。
鏡台の上にちょこんと置かれたそれには、この部屋を照らすオレンジの光りと同じ色の火が小さく揺れて、時折、明滅を繰り返している。
ぼうっと、俺はその火取り皿に視線を注いでいると、今度は、その隣から紙が捲(めく)られる音が聞こえた。
パラリ、パラリ。
見ると、いつの間に取り出したのか、リンドウが小さな手帳を手にしていた。
その手帳に、彼女は鏡台の中から拝借した筆のような筆記用具で、何かを書き始めた。
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