563人が本棚に入れています
本棚に追加
サラサラと、流れるような筆運びで何事かを書き綴っていく彼女に向けて、俺は一つの問い掛けを発した。
「それは、何?」
対して、リンドウは書き物をする手を休める事無く、簡潔に答えた。
「これは、私がこの学舎に来てから、毎日書いてる日記」
「日記?」
聞き返した俺に、彼女はパラリとページを一つ捲りながら、
「そう。週に一度、『魔厳』の外に住んでる家族に送る、手紙に載せるための内容なんかをこうしてまとめておくの」
心なしか、少し嬉しそうに言った。
(家族への手紙、か……)
「……そう、なんだ」
返事をしつつ、俺は部屋に備え付けてあった壁時計へと目を向けた。
「いつも、こんな遅い時間に?」
尋ねると、リンドウは首を振った。
「いつもという訳ではないけど……。日記を書くのは、この『学舎』での務めを終えてからだから、大体これくらいの時間になってしまうの」
パチン。
そこで、彼女は日記を書き終えたのか、手にしていた筆記用具を鏡台へと置いた。
パタッと、軽快な音を立ててながら彼女は日記を閉じると、
「ねぇ……」
唐突に、今までとは異なる口調で尋ねて来た。
「なに?」
リンドウの雰囲気の変化に、俺は思わず緊張しながら、彼女に言葉を促した。
最初のコメントを投稿しよう!