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なんとなく、俺は『ロト』での生活を思い出していると……。ふと、嫌な記憶が脳裏を過っていった。
暗澹(あんたん)とした気持ちに苛(さいな)まれながら、俺は口を開いた。
「……うん。本当に、すれ違う時に人の体をちらちら見て、通り過ぎる時にニヤける男の人とか、いったいなんなんだろうね…………」
男として、女性の体に目が行くのは分からない事ではないが……。それでも、こうして見られる方の立場になってみると…………。
「……はぁ」
思わず、ため息が出た。
…………本当に、いなくなってしまえばいいのに。
不意に胸の内で行き場のない感情が膨れ上がって、何気に怖い事を心の中で呟いていると、
「あなたは、その……。『申し訳ない』とか、そういう思いは無い?」
珍しく歯切れの悪い言葉で、リンドウは俺に尋ねた。
「えっ?」
質問の意味が分からずに、俺は頭上に疑問符を浮かべながら聞き返すと、
「あなたは、今は『アリシア・スカーレット』として生活しているんでしょう?」
「う、うん」
「一方、男としてのあなたは、公(おおやけ)には魔境調査の長期任務に出てる事になっているのでしょう?」
「そう、だけど……」
リンドウの意図が分からずに、ただ、俺は困惑気味に質問に答えていく。
彼女は、いったい何を…………?
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