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「だったら……」
小さく、リンドウは息を吸い込んでから、どこか改まるような雰囲気と共に、口を開いた。
「自分の意思とは無関係とはいえ、あなたは極めて生還率の低い任務に突然飛び込む事になったのだから、あなたの家族とか、お世話になった人達には、何も言わずに出て来てしまう形になった訳でしょう?」
…………あっ。
そこまで言われてから、俺はようやく彼女の言わんとしている事に気が付いた。
途端に、俺の舌は今までのように回らなくなってしまった。
「…………」
無言のまま、気まずく黙ってしまう俺の目に、問い掛けるようなリンドウの眼差しが真っ直ぐに向けられる。
火取り皿の明かりの揺れに合わせて、彼女の瞳に映るオレンジ色の光が揺らめいた。
少しの間、俺は彼女の目を見つめたまま言葉を探していたが……。
やがて、顔に自嘲(じちょう)するような笑みを浮かべながら、口を開いた。
「……俺には、家族はいないよ」
普段、こういう事を口にする機会などはほとんど無い。
実質、シーマ達の前で話して以来の告白だったが、それでも一度喋り出してしまうと、俺の言葉は驚くほどスラスラと口から滑り出した。
「元々、俺には身寄りがなくて、今から四年前までは小さな町の教会に住んでたんだよ」
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