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彼女は、大きく目を見開いていた。
藍色の瞳に動揺するような色を浮かべ、じっと俺の目を見据えて……。
「……ごめんなさい。つまらない話をしてしまって…………」
それから、申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいよ。別に」
笑ってリンドウの言葉を流しながら、
「それじゃあ、俺はもう寝るよ」
俺は、今の自分の言葉に一言添えると、あくびを噛み殺した。
自分の事を話し終えた直後に、まるで思い出したように睡魔が押し寄せて来たのだ。
強い眠気に、じわじわと芯から体を侵食されるような感覚に陥りながら、俺は布団に入り直した。
「おやすみなさい」
静かな就寝時の挨拶が、リンドウから発せられた。
「うん。おやすみ」
短く応えながら、俺はじっと部屋の天井を見つめた。
こげ茶色をした木製の天井板の中に、俺は人の顔のような模様を見つけて、なんとなく見つめていると……。
スッと、部屋の襖(ふすま)が開く音が聞こえて来た。
気になって、俺は周りに視線を向けてみると、いつの間にかリンドウの姿がなくなっていた。
彼女は、トイレにでも向かったのだろうか?
などと、俺は適当に考えながら、次に、おもむろに視線を火取り皿に向けた。
しばらく、鏡台の上で揺れる小さなオレンジの光を見つめてから、やがて、俺は目を閉じた。
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