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その時、俺の背後から鼻に掛かった幼い声音が聞こえてきた。
振り返ると、今日は昨日とは違って、狩衣を纏ったままのウカがこちらへと歩み寄って来るところだった。
「……うん」
もう一度、俺は桶にお湯をすくうと、頭から被った。
「そうか」
ペタペタと裸足の足音を小さく響かせつつ、ウカは俺の隣まで歩いて来ると、
「ところで、レオン。初めて生理を経験した感想はどうじゃ?」
悠長な口調で、そんな事を尋ねてきた。
「どう、って……」
俺は、彼女の質問について少し考えてから……。
やがて、素直に感じた事を口にした。
「……びっくりしたよ。最初は何が起きたのか分からなくてさ。……それに、凄く怖かったし…………」
視線を落としながら、俺が訥々(とつとつ)と言葉を並べている時。
クスリ、と、隣から含み笑いが聞こえてきた。
「まぁ、そうじゃろうな」
気になって、ウカの顔を見ると、彼女は半笑いで俺の顔を覗き込んでいた。
……何がおかしいのだろうか?
なんとなく馬鹿にされた気がして、思わず、むっとしてしまう。
「…………」
口を閉ざして、ウカの琥珀色の瞳をじっと見据えていると……。
ようやく収まってきていた胸の中の感情が、蒸し返されたように表に出てきてしまった。
一度止まったはずの涙が、再び込み上げてきたのだ。
それは、あっという間に俺の目尻から溢れて、ぽろぽろと零れ始めた。
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