紙芝居

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 町はずれの公園で変わった出し物をする男がいた。その出し物とは『紙芝居』である。おっと、勘違いしないでほしい、紙芝居といっても、紙に書いた絵を見せながら裏に書いている文章を読み聞かせする古典的な紙芝居とは違う。男が見せる紙芝居とは、読んで字の如く、『紙』による『芝居』なのだ。どういうことかというと、男が容易したトランクケースほどの大きさの小さな舞台の上で、紙で作られた人形達が劇を見せるのである。どういう仕掛けで動いているのは、誰も知らなかった。だけど、知る必要はない。男が見せる紙が織りなす世界では幻想的で、誰もが酔いしれ、感動して、どのような仕掛けで紙人形が動いているのか、そんな無粋な考えは少しも沸いてこないのだ。  男が公演する紙芝居には様々な話があった。日本の昔話を題材にしたのもあれば、海外の名作もある。男が作品に対するこだわりは、本物で職人のように様々な材質の紙で紙芝居を完成させた。ただし、紙粘土だけは『紙』という言葉はついているが、男の中では粘土の部類に分けられているらしく使われることはない。  男の技法がどれほど素晴らしいのか。例えば、怪談話。一見すれば、ただの紙人形にしか見えないのも光りの当て方一つで、真っ白な舞台の壁に映る影は恐ろしい化け物になり、紙芝居であるのにも関わらず観客全員の恐怖心を煽った。また、桜散る風景では背景だけでなく、この芝居の為だけにピンク色の折り紙から極小の花びらの形に一枚、一枚、切り取ってつくるのだ。それが舞う時は、本当に目の前に季節はずれの桜が見えたかのようだった。その繊細な作業には頭が下がる思いである。  町はずれの公園で、繰り広げられるトランクケースの小さな舞台。男の紙芝居は人伝に話題を呼んで、少しずつ客が集まるようになり、地方紙にも取り扱われるようになった。丁度、大きな事件もなかった時期である。ほのぼのとした話題は人の関心を引き、ある政治家も興味本位でお忍びで見に行ったこともあった。その時は、あまりの出来の良さに感動して涙を流し、男に何らかの賞を贈るべきだと言い出したぐらいだ。
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