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紙芝居、最後の場面は主人公と仮面を被った宿敵との対決の場面であった。宿敵は主人公と共に死ぬつもりで、舞台に火を放った。火は次第に燃え上がり、舞台は炎に包まれた。その時の炎はあまるで、本物のようだった。演出とはいえ、本物の炎をつけるとは誰も思わなかった。そんなことをすれば、大事な紙人形が台無しになってしまうからだ。
燃え広がる炎の中で二体の紙人形は紙で出来た剣を片手に交わっていた。迫力に観客は圧倒された。紙の剣が擦れ合っているだけのはずなのに、紙人形の表情と同じように、聞こえるはずのない本物の剣が擦れ合う男が聞こえていた。
主人公は宿敵が除けた一瞬、剣を突き出した。その剣は見事、宿敵の胸を貫いた。主人公はついに宿敵を討ち取ったのだ。
瞬間、観客がワッと歓声に沸いた。あとは、そこから脱出するだけだった。
ところが、主人公は討ち取ったはずの宿敵を抱えて逃げようとしなかった。それどころか、宿敵の仮面が外れた時、観客は唖然とした。宿敵の正体は主人公の最愛の女性であった。宿敵は自分にトドメをさすように言った。だが、主人公には出来なかった。人を愛してしまったから。その人に手をかけることなど。二人は互いに抱き合ったまま炎に飲まれた。
壮絶な光景であった。崩れゆく舞台。まさに、衝撃のラストであった。静まりかえる観客。やがて、誰かが手を叩いた。それに釣られて他の人も手を叩く。拍手は大きくなり周囲に聞こえた。まるで大合唱のようだった
そこで、紙芝居を見ていた観客の一人が声を上げた。
「お、おい!あれ、本物の火じゃないか!」
ハッとして、観客はトランクケースに注目した。舞台から上がっていた炎。初めは作り物だろうと思っていたが、揺らめき方に立ち上る煙。どれも偽物ではない。本物の火だった。
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