過去と傷

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四方から狼に向かって槍が突き出される。その槍はどれも空を突き、狼を貫くことはなかった。 槍が狼の体を貫く直前に、狼が消えてしまったのだ。 4本の槍先が重なり、それぞれの持ち主が目線で狼を探す。 その直後、重なった槍の上に狼が舞い降りた。 狼はもう一度、高く跳び上がったのだ。さっき龍一に跳べと言われて跳んだ時よりも早く、高く。 一度狼が跳んだところを見ている敵たちは、それが狼の跳び上がるスピード、高さだと勘違いした。 龍一が狼を跳ばせたのは、自分の通り道を作る為だけではない。敵に勘違いさせる為だったのだ。 狼はその意図を完璧に理解し、わざと軽めに跳んだ。 軽めと言っても、狼ほどの戦闘力を持たない敵たちには、十分高く早く跳んだように見えたのだろう。いとも簡単に騙された。 出していた槍の上に狼が着地し、重くなった槍先に引かれて敵たちは前につんのめる。 4人の敵たちが倒れる前に、狼は後方に跳んで床に着地し、その瞬間に1人の首に蹴りを放った。 次々に繰り出される狼の華麗な動きに翻弄され、なす術もなく残りの3人も倒れ伏した。 相手していた敵が全員倒れたのを確認し、狼は龍一の方を見た。 向こうはまだ5人残っている。 狼は龍一めがけて全力で駆け出した。そして龍一の目前まできてもスピードを緩めずに、勢いを保ったまま彼の肩に右手を置いた。 その右手を支点に宙返りをし、床に着地する前に敵の1人に蹴りを浴びせて、龍一と背中あわせに立った。
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