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「おれに勝てたら、その名を覚えてやるよ。まあ、これまで日乃元人に腕相撲で負けたことはないけどな。さあ、こい」
テルとカイがにらみあったまま、中腰になった。テルは巨漢のウルルク人より身長は20センチ近くちいさかった。肩幅と胸の厚みはいい勝負だ。机のうえに太い腕が二本伸びる。にぎりあった拳は、大理石から削りだしたかのようにがっしりと結ばれた。もう前哨戦(ぜんしょうせん)は始まっている。いいポジションをとろうと、おたがいに譲らない。テルが顔を赤くしていった。
「タツオ、おまえが審判をやってくれ。父上がウルルクの首都攻防戦で亡くなったんだろ。こいつらは親の仇(かたき)じゃないか。裏切り者のウルルク野郎め」
氾(はん)帝国に寝返った貴族の一部が休戦中に城壁の門を開き、皇国の防衛隊は壊滅的な打撃を受け、全員玉砕(ぎょくさい)した。その貴族はいまや北ウルルク人民共和国の首相だ。カイも顔を真っ赤にして、唇の端から漏(も)らす。
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