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テルもカイも顔を真っ赤にして全力で闘っていた。だが、拳の位置は最初のところからまったく動かなかった。息詰まる時間が流れていく。3分、5分、10分。額(ひたい)や首筋に汗をだらだらと流しながら、ふたりは闘っていた。力は拮抗(きっこう)している。応援する声にも力が入った。ウルルクの3人が叫んだ。
「カイ、がんばれ。日乃元野郎に負けるな」
「そんなチビ、ぶっ潰(つぶ)せ」
クニが両手を打って、テルの耳元でいう。
「デカブツに負けんな。おまえが勝ったら、デザート3日分くれてやる」
甘いもの好きなクニにしては、大盤振る舞いだった。タツオは審判なので、応援はできない。ジョージはどうしているかと見ると、壁にもたれ冷静に勝負の行方(ゆくえ)を見守っている。この男のクールさを乱す方法はないものだろうか。勝負が始まって、4人部屋の空気はボイラーで熱したかのように濃厚になっていた。タツオものどが渇(かわ)いてしかたない。
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