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 勝負が傾(かたむ)き始めたのは、開始15分を過ぎてからだった。力はほぼ互角、だが持久力では日乃元人のほうがやや勝(まさ)っていたようだ。じりじりとカイのおおきな拳が押され、寝ていく。 「どうした、カイ。おまえの力はそんなものか」  スリランが叫ぶと、カイは最後の力を振り絞って反撃にでた。けれど、どうしてもテルを押し戻すことはできない。 「くそーっ!」  戦況が一気に動いた。カイの巨体から力が抜けていくのが、タツオにもわかった。浅黒いウルルク人の手の甲にカッターの刃が突き刺さる場面を想像した。 「もういいだろ……」  タツオが制止する直前に、カイの拳が机にうちつけられそうになる。そのとき目のまえを黄色い光がかすめた。それが机のうえのカッターつき消しゴムを飛ばしていく。  間一髪(かんいっぱつ)だった。カイの手の甲は机に激突したが、そこにカッターの刃はもうない。壁に跳ね返って弾(はず)む黄色いものに目をやった。テニスボールだ。腕を組んで見つめていたジョージがスナップだけで投げたものだった。学年順位1番は手をたたいて笑った。
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