第3話

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 昨日は、昼過ぎにショッピングセンターに行った。帰りは夕方だったけど、日中に外を歩いた。でも平気だった…。 なんでだ?  記憶を手繰ると、疑問はあっさり解決した。  昨日の昼ごろはちょうど曇っていて、おまけに風も吹いていた。正確な気温はわからないけど、そんなに暑いとは思わなかった。だから、平気だったんだ。  でも、まだ何か引っかかる…。  ふと。倒れていたアゲハの姿が頭をよぎった。  そういえば、あんなに暑い部屋にいて、アゲハは汗をかいていなかった。僕なんて、すぐに玉のような汗が浮かんできたというのに。  昨日、外を歩いていたときも汗をかいていなかった。  あ!  そっか。  汗をかいていなかったんじゃなくて、汗をかかないんだ。  蝶は、昆虫。汗なんてかかない。  人間は汗をかくことで体温調節しているけど、変温動物である昆虫に、その機能はない。  アゲハが汗をかかないという事実は、アゲハの身体が蝶のときの構造の一部を引き継いでいるということを表している。それは同時に、環境面においてもアゲハを人間と同じように扱ってはいけないということでもあるんだ。    今更ながら気付いて、僕は呻いた。長い長いため息を吐く。     どうして、僕はこんなにも抜けているんだろう。
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