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「じゃあ、僕そろそろ出かけるね。午前中のご飯は、キッチンに用意してあるから。それ飲んでね」
と、僕は部屋の引き戸を開けて、二畳ほどのキッチンに歩を進める。目の前のキッチンには、先ほど作ったアゲハの食事――ハチミツを水で薄めたもの――が入ったコップが置いてある。
「飲むときは、ラップを外すんだよ?」
「うん」
「僕が出たら、鍵かけるんだよ」
「うん、わかった」
何から何まで説明している自分がなんだか可笑しい。兄しか兄弟がいないから今まで気付かなかったけど、僕って結構、世話焼きなのかもしれない。
そんなことを思いながら、カバンを肩から斜めに掛け、靴を履く。アゲハが家で留守番してるけど、念のために鍵を持っていこうと手にしたところで、言い忘れていることがあることを思い出した。
「そうだ、アゲハ」
振り返ると、アゲハが玄関より一段高いところからこちらを見ていた。玄関と部屋の段差では、まだ僕の方が目線は高いけど、距離は少し近づいている。
「もし蝶に戻ったとしても、僕が帰ってくるまで外に出してあげられないけど……。何か身体に異変があって戻るのがわかったら、窓の網戸を開けて、出て行っていいからね」
「え?」
「えっと…。一気に言いすぎたね、ごめん。んーと。窓開けたままでいいよって、意味だったんだけど…」
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