第3話

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「まどあけたまま、でていっていいの?」 「うん、いいよ」  一階の部屋だけど。まぁ、泥棒もこんな古いアパートに金目のものがあるとは思わないだろうし。…実際、ないし。 「……わかった」 「じゃあ、留守番お願いね」 「うん」  僕はアゲハに背を向けながら、玄関扉を開く。 「いってらっしゃい」 「っ!?」 「ちがった?」 「あ、いや。あ、あってるよ?」  一瞬、止まってしまった。思考と身体が。  アゲハが昨日見たドラマに出てきたこの言葉をさっそく使ったことよりも、一人暮らしのアパートで、誰かにこの言葉をかけてもらえたことに、予想以上に心臓が跳ねたから。 「じゃ、じゃあ、いってきます」 「いってらっしゃい」  笑顔で言うアゲハを直視できない。  何でもない風を装いながら、扉を閉めて数歩歩いた。けど、僕はそこで止まってしまった。  ドッドッと、心臓の音がうるさい。きっと、顔、赤い。たぶん、耳まで赤い。  家族以外の、それも女の子に送り出されるって、こんなに照れるものなのか?それとも、単に僕が免疫なさすぎるだけなのか?  大きく息を吐き、顔の火照りを冷ますように、手で顔を扇ぎながら駐輪場に向かう。  帰ったら、おかえりなさいって笑顔で言われたりするんだろうか。  そう思った瞬間、顔の熱がぶり返した。
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