第3話

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 鍵穴に鍵を差し込み、回す。カチャという解錠音を聞いてから、扉を開けた。 「ただいま」  言って、少し照れ臭くなった。ただいまなんて、この部屋に越してきて初めて言ったから。  そういえば、朝、帰ったらアゲハがおかえりなさいを言ってくれるのを想像して照れたんだった。って、今、アゲハがいないのに勝手に照れてるけど。  のんびりと靴を脱ぐ。  しかし、アゲハが玄関にやってくる気配がしない。 「ただいまー」  しつこく言ったのは、別におかえりなさいって言ってほしいからじゃない。  アゲハは、僕の言動にいちいち反応してくれるから、帰ってきたら玄関まで出てきてくれると思っていた。だから、何の反応もないのが、少しおかしい気がした。  二回目にも反応がない。部屋から、小さくテレビの音がする。テレビに夢中なのか?  スーパーの袋を持ったまま、部屋に続く引き戸を引く。  え?  ……っ! 「アゲハ!!」  僕は手のものを放り出して、叫んだ。
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