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「相変わらずねぇ」
目の前で腕と足を組むヤブ医者(オカマ)は俺、橘 准平を舐めるように見て、呆れたようにため息を吐いた。
だが、どうしてか口元だけは緩やかに弧を描いていて、それがなんだか不気味に思えて仕方がない。
さっきから全身鳥肌が立っていて早く診察を終わらせてほしかった。
俺は適当に「そうですね」と相槌を打つ。
するとオカマ医者(新崎)は口角をニッと上げて
「そうやって適当な返事ばかりして、早く終わらせようったって無駄なんだからね」
猫なで声(男声バージョン)でウィンクをした。
さらにぞわっと鳥肌が立ったのは言うまでもない。
「やめてくれますか。そういうセクハラ」
俺は無機質で空っぽな瞳で、目の前のオカマオヤジを見つめる。
俺の目は空っぽだ。
目ん玉はついているけど、空っぽ。
ものを見る役目もきちんと果たしてはくれるけど、それ以上のことはしない。
たとえば"目は口程に物を言う"なんていうけれど、俺の目は物なんて言わない。
何を言われても動揺なんてしないし、今更傷つきもしない。
つまりは感情とリンクしていない。
ただ、見るだけ。
そんな空っぽな目だ。
新崎は慣れたように「はいはい」と手をひらひら振ると、パソコンのキーボードとマウスを駆使して俺のカルテを呼び起こす。
そしていかにも有能な医者のように「調子はどう?」と、尋ねてきた。
「まぁまぁです」
「またあなたは……そればっかりねぇ。眠れてるの?」
「まぁまぁです」
「んもう…ちゃんと言わないとちゅう」
「眠れないです」
危なかった。
危なく地獄を見るところだった。
これではビルの屋上から飛び降りる前にこのヤブ医者に愛で殺されてしまう。
「ちゃんと言えるじゃないのぉ。いい子いい子」
そう言って新崎は男のごつい手で俺の頭をそっと撫でた。
彼の行動の所為で再びぞわっと鳥肌が立ってしまったではないか。
どうしてくれるんだ。
「…やめてもらえますか」
小さくつぶやくが、彼はそんなのお構いなしに頭を撫で続ける。
「いいじゃない。あなたはもうお母さんもお父さんもいないんだから、私がお母さんになってあげ」
「結構です」
きっぱりと言い放つと、丸椅子から立ち上がる。
そして「ありがとうございました。また来週来ます」と棒読みすると頭を下げて、診察室をあとにした。
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