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リフトを降りて、まっ先に目に飛び込んだのは、1班の面々。
不覚にも、和木と目を合わせてしまった俺の所へ、颯爽とやってきた。
「おう。多田!今日はテストだぞ!気合入れろ!」
「ぁい・・・」
俺のやる気のない返事にも、笑顔で返す和木。
誰にでも分け隔てなく関わるところが、人を魅了するんだろうけど、俺はそこが嫌いだ。
「気合入れろって!お前も、既に全国で競えるレベルにあるんだ。今日のテストでいいとこ見せて、早く1班にこい!」
「ぁい・・・」
なんだその勝ち誇ったような顔は!
それに、言われなくても気合いバリバリなんだこの野郎!俺の目標はお前なんかじゃねぇ!
俺は世界で戦いたいんで、全国なんか通過点にすぎねぇんだ!
とか言いたかったのだが、この時点で俺は2班。
1班の和木に勝てていないので言える訳ない。
そんなことを考えている俺に対して、和木はアドバイスらしき事をゴチャゴチャ言っているけど、内容はほとんど入ってこない。
これ以上、和木のニヤケ面なんか見たくねぇ。
その一心で、目を逸らした。
「じゃぁ、2班は頼んだよ」
そう言って、1班を率い、先に滑走した和木をチラッと見送ったとき、突如背中をつつかれた。
「おい!聞いてたんか?」
背中をつつき、声をかけてきたのは、春紀君だった。
春紀君も、和木と同じオリンピック候補選手。
俺からすれば、和木なんかより春紀君が主将だったらと思う。
「和木君が嫌いでも、話くらいは聞いとけ」
俺にしか聞こえない小声でそう言い、ニヤリとする春紀君。
俺のことを、いろいろと知ってくれていて、先輩と言うより兄のような存在だ。
「先輩から奪えるものは、技術だけじゃないぞ。話も勿論そうだし、今なら紗江ちゃんも・・・」
「え?」
「詩織から全て聞いた。奪っちゃえよ!」
そう言い残し春紀君は、和木を追い滑走した。
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