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「ねぇテル、ちょっと残ってよ………話があるから………」
片思い中の紗江が俺を呼び止めたのは、食堂でのミーティングが終わり解散した時のことだった。
後ろから紗江の小さな声が聞こえて、後ろから腕をそっと捉まれた。
何かが違う感じがした。
普段なら、横腹を小突いてニタニタする紗江が、そっと腕を掴むなんてことは今までない。
いつもの紗江じゃないのは、鈍感な俺でも分かった。
「うん?スキー板の手入れしてるから・・・そこでいいか?」
「分かった。じゃ、後で・・・」
紗江から、こんなふうに声をかけられるなんて予想外の出来事に心臓の高鳴りを抑えるのがやっとだった。
好きな子の前では動揺を悟られたくなく、いつものように無愛想に返した。
いつもと違って思いつめた表情をしていた紗江。
いつも笑顔を絶やさない良いマネージャーのはっきりとした変化に、深刻な話だとすぐにわかった。
今年の4月、スキーでオリンピックに出るという目標を胸に、スキー部のある学校に入学した。
日本代表選手を輩出した実績のある学校だ。
そこで、この茶髪の似合わない紗江と知り合って、すでに8ヶ月。
入学当初は、黒髪のポニーテールが似合っていて感じのいい印象を持った。
出会った時は特に意識をすることもなかったが、紗江が自分のことを気にしてるみたいだと、親友の山多洋から聞かされてから意識するようになった。
山多洋は、学校以外でも毎日顔を合わせている親友。
学生寮の同部屋ってこともあり大概のことは知りあっている仲で、ヒロと呼んでいる。
紗江とは、恋仲になりかけたこともあるが、俺が二度告白して、二度とも見事に玉砕している。
なかなかに思い通りにいかない女だが、そんな女ほどいい
って、歌にもあったよな。
で、残念ながら紗江は俺の大嫌いな先輩の和木って奴と付き合っている。
似合わない茶髪も、和木が好きだって理由でそうしているんだって。
俺は、黒いポニーテールの方が似合ってたとおもうし、好きだ。
あの頃の紗江の方が断然良かった。
二度告って、二度振られても、ただの友達って割り切れないくらいだからな。
いやぁ、男って未練がましいよなぁ
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