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それで、この日の夜。
俺と紗江はミーティングが終わったあと、スキー板の手入れをしながら話した。
ミーティング後は、それぞれがテレビを見たり雑誌を読んだりして、簡易ストーブしかなく寒いスキー板が置いてある部屋に入る奴は、そうそういない。
でも、俺は本気でオリンピックを目指しているから、その辺のチャラい部員とは訳が違う。
この日も、俺はその目標を紗江に語りながら、スキー板の手入れを怠らない。
「目標には近づいてる?」
いつもなら、この言葉を、お決まりの台詞のように言うのに、この時は、違った。
「・・・なんでかな?」
いつもと違う台詞の紗江は、俯きながら呟いていたが、俺は気にせずスキー板にワックスを塗り続けた。
俺の返事を待とうともせず、紗江は続けて話す。
「上手くいかないんだよ・・・」
今度は天井を見上げながら呟く紗江。
その声は、泣くのをこらえるように震えていた。
天井を見上げたのは、涙が流れないようにしたかったからだと思う。
気持ちが分からないわけじゃない。けど、それにも然程反応せず、スキー板にワックスを塗りながら聞き返した。
「へ~。そりゃ大変だ・・・って、何の話?」
俺は、直ぐに和木の事だと気づいたけど、それ関連の話が気に入らなく知らないふりをした。
どこかで、和木の話じゃないというのを期待したからかもしれない。
「どこで間違っちゃったのかな?」
震える声で今にも泣き出しそうなのが分かったから、さすがに手を止めた。
紗江を見たが、何を言うわけでもなくというか、何て言えばいいのか分からなくて、ただ紗江の言葉を待った。
「最近は会話もないんだよ……スキー部の主将とマネージャーとしての話はあるけど、それって違うでしょ……付き合っているって何?」
難題だ。
俺には、紗江に答えを教えられん。
だって、俺は紗江と付き合えなかったってか、紗江に振られた男だぞ。
二度告白して、二度も振られた男だぞ。
お前コラ!振った男にそれを聞くのか?
知るかボケ!そういうこと聞くんじゃねぇ
そう言ってやろうと思ったが、声には出来なかった。
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