第1話 馬鹿だよ

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 それで、この日の夜。 俺と紗江はミーティングが終わったあと、スキー板の手入れをしながら話した。 ミーティング後は、それぞれがテレビを見たり雑誌を読んだりして、簡易ストーブしかなく寒いスキー板が置いてある部屋に入る奴は、そうそういない。 でも、俺は本気でオリンピックを目指しているから、その辺のチャラい部員とは訳が違う。 この日も、俺はその目標を紗江に語りながら、スキー板の手入れを怠らない。 「目標には近づいてる?」 いつもなら、この言葉を、お決まりの台詞のように言うのに、この時は、違った。 「・・・なんでかな?」 いつもと違う台詞の紗江は、俯きながら呟いていたが、俺は気にせずスキー板にワックスを塗り続けた。 俺の返事を待とうともせず、紗江は続けて話す。 「上手くいかないんだよ・・・」 今度は天井を見上げながら呟く紗江。 その声は、泣くのをこらえるように震えていた。 天井を見上げたのは、涙が流れないようにしたかったからだと思う。 気持ちが分からないわけじゃない。けど、それにも然程反応せず、スキー板にワックスを塗りながら聞き返した。 「へ~。そりゃ大変だ・・・って、何の話?」 俺は、直ぐに和木の事だと気づいたけど、それ関連の話が気に入らなく知らないふりをした。 どこかで、和木の話じゃないというのを期待したからかもしれない。 「どこで間違っちゃったのかな?」 震える声で今にも泣き出しそうなのが分かったから、さすがに手を止めた。 紗江を見たが、何を言うわけでもなくというか、何て言えばいいのか分からなくて、ただ紗江の言葉を待った。 「最近は会話もないんだよ……スキー部の主将とマネージャーとしての話はあるけど、それって違うでしょ……付き合っているって何?」 難題だ。 俺には、紗江に答えを教えられん。 だって、俺は紗江と付き合えなかったってか、紗江に振られた男だぞ。 二度告白して、二度も振られた男だぞ。 お前コラ!振った男にそれを聞くのか? 知るかボケ!そういうこと聞くんじゃねぇ そう言ってやろうと思ったが、声には出来なかった。
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