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「悩んだんだ・・・翔ちゃんに告白されたとき・・・」
紗江は、和木のことを名字ではなく名前で呼ぶ。
それが一番気に入らないのに、俺の前でそう呼んだから、過剰に反応してしまった。
「だからっ?で何?・・・お前が選んだのは俺じゃなくて、あいつだろ?今さらなんなんだ!頭にくるから言うなよ・・・・・・くそっ!」
「ごめん。でも・・・でも、迷ったんだよ・・・相談したんだよ。詩織と亜希子はテルにしとけって言ったけど・・・けど・・・」
「けど?けどって何だよ、今さら。ごめんって何だよ?・・・詩織も亜希子も関係ねぇじゃんか」
そう言ったつもりだったけど、声にならなかったらしく紗江には聞こえていない。
下を向いた紗江は、そのまま声を震わせながら話した。
「こんなになるなら・・・こんなに苦しいなら、テルと付き合っとけば良かった・・・」
上を見て流れないように堪えていた涙。
それでも、紗江の頬をつたい流れた。それと同時に肩を震わせ泣き出す紗江。
彼氏である和木のバカタレが、紗江をほったらかしここにいないってのが一番の問題だろ?そうだよな?
自分の彼女ほったらかして何してんだって思う。
オリンピック候補選手でスキー部の主将。
みんなの憧れなんだって。
みんな、お似合いの二人だなんて、うすら惚けたこと言いやがって・・・
ハッキリ言って、俺は大嫌いだ。
なんで紗江はあんな奴と付き合ってんだって思っている。
今、紗江が泣いているのも、和木がしっかり繋いでないからじゃねぇか!
俺の方が絶対、紗江のこと好きなのに・・・・・・・・
・・・・・って、ちょっと待てよ・・・こ、このながれ・・・
ひょっとしたら、紗江って、俺のこと?
今なら、紗江を振り向かせることができるんじゃね?ついに俺の時代きちゃった?
そんな自己中心的な勝手な思いが頭の中をいっぱいにした。
紗江の気持ちを汲み取ることさえしていない。
「いや~、今日の夕食のみそ汁って、具はないし、薄すぎたし、不味かったなぁテル・・・・・・って、お前、何しとるんじゃ!!」
そこへ、タイミングよくというか、悪くというか親友のヒロ登場。
いつものように、愚痴りながら入り口のドアを開けたヒロ。
その目に入った紗江の姿を見て、俺のせいだと睨んでいる。
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