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「ち、違うぞ。俺じゃない!」
咄嗟に言った言葉。
紗江でなく、自分自身をかばった。
紗江がどう思ったかは知らないけど、考えれば俺のせいかもしれない。
俺が、もっと紗江のことを考えられたら、泣かすこともなかった。
でも、この時の俺は、冷たかった。
「もう行くよ。ごめん・・・ヒロ君が来たし」
紗江は涙を拭いて何もなかったように話した。
「って、あれ俺、邪魔者?」
場の空気を悪くしたと捉えたヒロは、おどけて見せた。
それでも、紗江はそれには触れないように、いつものようにヒロに言った。
「こっちきて、テルと話してあげて・・・悩み満載のテルを助けてあげて・・・こういうのは男同士のほうがいいよね?!」
悩んでるのはお前だろ!
何の解決もしてないだろ!
って言いたかった。
でも、無理に笑顔を作ってヒロに接する紗江を見るとそうは言えなかった。
紗江の笑顔が作り笑いだってヒロも分かっていて、部屋から逃げるように出ていく紗江を眼で追うだけで、止めはしなかった。
「何かあったろ?」
「いや、知らん。紗江が勝手に愚痴こぼして泣いてただけだ」
紗江の姿を目で追う事もせず、それすら振り払うようにスキー板とにらめっこする。
「追わなくていいのか?ほっとけないだろ?泣いてたし・・・なぁ?」
普段見せない真剣な顔で、責めるように言ってくるヒロに少しイラっとし、強く言い返した。
「なにが!知らんよあんな奴。自分で選んだ道のくせに・・・だいたい勝手すぎんだよ!全部俺が悪いみたいじゃねーか!」
ヒロに考えを見透かされて、怒鳴ってしまった。
それすら分かっていたように、興奮する俺に、静かに言い返すヒロ。
「じゃ、紗江が全部悪いのか?」
もっともなヒロの返しに、俺はまともに返せなかった。
「そ、それは違うけど、俺にも・・・・・・ていうか、何してんだ俺は?先輩の女泣かせてしまって・・・・・・」
俺が、何と答えても、ヒロは、この言葉を言うつもりでいたんだろう。
俺が意見をまとめる前に口を挟んできた。
「まだ紗江のこと好きってことだろ。和木さんは関係ねぇよ」
「は?・・・俺は、べつに」
「そうか・・・今でも好きなのは、悪くはないけど・・・」
「けど?けどって何だよ?」
「紗江以外にも女はいるんだぞ」
「は?な、なにが?・・・女だと?」
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