第2話 奪っちゃえ

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第2話 奪っちゃえ

朝から快晴。 山の天気は変わりやすいと言うが、雲一つない青空を見ると、そんな言葉もどこかへ消えていく。 合宿所は標高1000mにあるため、晴れていてもこの時期の朝は十分寒い。  そんな中、雪の積もった合宿所前の広場で、ミーティングが始まる。 時刻は朝8時。 スキーのレベル別に分けられた30名の部員と2人のマネージャーが、集合する。 全国レベルが1班、それ以下が俺の率いる2班、3班は、補欠組とビギナー。 この日が、合宿最終日であるが、連日の疲れは無いのか?と思うほど元気な監督の声が雪山に響く。 見た目は、ポッコリと腹の出た50過ぎのおっさん。 だが、眼光は鋭く185cmの巨体。 威圧感、存在感とも半端でない。 名は体を表すの言葉通り、鬼瓦という名もしっくりきている。 元プロのデモンストレーターだったそうで、スキーの腕前は間違いない。 「おはよう!え~、いつものようにぃ班長は、1班和木、2班多田、3班関浜。え~、何かあれば直ぐに各班長に連絡しろぃ!え~、班長はワシに報告しろぃ!え~、合宿最終日であるからぁ、え~、午後から選抜テストをするよぃ!気を抜かないようにぃ!え~、以上!」 聞き慣れてしまったのだが、その喋り方どうにかならんか? 気になってしょうがない。 ヒロなんか真似しすぎて、口癖みたいになっている。 ま、鬼瓦のおっさんのことより、紗江だ。 昨日の夜、あんな事があったのに何もなかったような顔で、鬼瓦のおっさんの隣に立っている。 そんなんだから、お前の異変に気づかねーんだ。 一人で全部抱え込んで、和木には話せないで…… それで肝心の俺は何も出来ないで…… 紗江に申し訳なくて、まともに見れなかった。 そんな自分の気持ちを隠し、同じ班のヒロとリフトで山頂に向かった。 「え~、多田。え~、調子はどうだい?」 山頂までのリフトは話し合いの場でもある。 いつも決まってヒロから話が始まる。 この日も朝からヒロのテンションは高い。 鬼瓦のおっさんを真似しているヒロに、同じように言い返した。 「っうざいやぃ!朝から真似んなよぃ!」 それを聞いたヒロは、ニコッと笑いかえしてくれた。
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