0人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
あるべき物が、あるべき場所に存在するのは、とても嬉しい。
「みく~、どこ行くの~?」
でっかい荷物を運びながら、たかちゃんが遠くで泣き声をあげている。
「もう少し~」
「さっきもそう言った~!」
「実はここ~」
「さっきもそう言った~!!」
どっせい、と凄いかけ声で、たかちゃんは白い布に包まれたキャンバスを地面に置く。
「……もう少し丁寧に扱ってよ」
「自分でもて!」
「じゃあ、帽子とばされたらとってきてね♪」
「それは……もう疲れた」
すでに経験則として、彼女は溜息をつく。
両方持てとは言わないところが、とても、らしい。
絵を持って、小さなひまわり畑に降りて、わたしは大きく深呼吸した。
たかちゃんは、それを丘の上で見ている。
「何しにきたの?」
「……確かめようと思ってね」
ひまわりを見上げて、わたしは頷く。
「……お父さんの絵は、死んだ人間のためじゃなくて、生きてる人のために描かれているんだって」
小さく、自分に言い聞かせるように呟く。
お母さんの絵だって、わたしに笑っていろと語りかけてきたんだから。
布をとく。
徐々に露わになる絵を見て、たかちゃんが駆け寄ってきた。
「わ、すごい!!」
「何を感じる? 正直に、思ったまま」
「きれい……それに、生きてる」
彼女は、ほぅ、とため息をつく。
良かった。
この絵をみれば、みんな、本当のお父さんを理解するだろう。
最後には。
わたしのように。
直也くんのように。
白い布は、遥か遠くに流されていく。
まるで天使の羽衣のように。
絵を見つめて、背伸びして、帽子をひまわりにかぶせた。
「……確かめたかったんだ……ずっと」
『今、この文章を書いている手も震えている。ぎこちなくて、汚い字が暗号みたいに並んでいる』
『実は、こんなものを書き残さなくても、わたしはこの夏の出来事をつぶさに思い出すことができます』
『今でもたまに、この夏の夜を夢みます』
『とても大切な人を手に入れて、とても大切な人を失った夏休みの夢を……』
『いつか、子供達に語って聞かせられればと思う』
『どこまでも果てのないひまわり畑』
『おっきな白い入道雲』
『塗り込められた風は、少し潮の香りを含んでいる』
『この夏休みが、ずっと続けばいいのに……』
最初のコメントを投稿しよう!