はじまる夏休み

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 ほんとうに。  「寝てるか縛り付けてるかしないと――ってヤツです」  「……紛らわしい」  空を仰いで、先輩は大きく溜息をもらす。  「だから、最後の謎解きをするんですよ」  「なにそれ?」  不思議そうな先輩に、僕は視線を送る。  「どうして、こんなにもややこしいのか」  「ややこしい……確かに」  全ての事象が、誰かの一言ですんだのだ。  それを抑えていたのは誰か?  誰が神様で。  誰がてのひらの上で踊っていたのか……。  最後の舞台に立つ。  先輩は不思議に辺りを見渡していた。  「なに?」  「……これ」  僕は、足下を示した。  そこには、先生が作った、元プールの残骸――花壇があった。  「……え? これって……」  これを見せられた時の僕と同じように、先輩は呆気にとられた顔をしている。“ひまわり”と書かれたプレートの地面は堀り返されていて、目も当てられないが、“トマト”と書かれた苗はすくすくと育っていた。  「トマト」  「嘘……」  「嘘です」  彼女も理解していた。  これは、トマトじゃない。  なんの植物か見分けがつくくらいに成長したそれは、明らかにひまわりだった。  先輩が、スカートが汚れるのも構わないといった感じで、地面に座ってそれをなでる。  「ええ……多分、先生、すごく楽しんでたと思いますよ」  「……子供みたい」  笑ってるのか泣いてるのか、先輩の肩が震えている。  「う~ん、と大きく育てる」  「ええ」  「もう一度、ひまわり畑を見たいから」  「ええ」  そう言って、僕は8月の空を見上げた。  とても青くて、まだまだ厚くなる気配がある。  夏休みは、まだはじまったばかりだった。  ・  ・  ・  ・  ・  「兄様!」  青い空に、黄色い声が木霊した。  「……まずい」  ばれるのも早ければ、ここを目指すのも早い。  先輩が、笑顔のままで立ち上がって、小首をかしげる。  夏の終わりを告げるように、うすら寒い笑み。  「怒涛の新展開? 新たな強敵登場?」  すごく辛辣な目で笑って、先輩はすたすたと歩き出してしまった。  腹が痛んで、走れない。  僕は、色々な汗を一杯かきながら、必死に後を追った。  誰かのために。  主に、自分自身のために。  ありとあらゆる言い訳を考えていた。  結婚して下さい・    
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