第4話 お父さん

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 「嫌いになるわよ……ええ、ずっと、バカみたいに嫌いだって思いこんで、そのうち本当に嫌いになるんだからッ!」  「……できませんよ」  地面に突っ伏す少年から離れ、彼はわたしの前にしゃがみ込んだ。  「……でも、どうすればいいかな?」  「……キス、して」  彼は目を泳がせて、微笑んだ。  「……先輩、笑って下さい」  「? え、うん」  言われるまま、笑った。  直也くんの笑顔を見れたのだから、これは、笑い話でしかなかった。  「……うん。よかった……これで良い夢が見れそうだ」  「え?」  さしだされた直也くんの両手は、真っ赤に濡れていた。  わたしの頬に触れていた、その手を掴む。  それはずっと、わたしの血だと思っていたのに、どこか温かみが違った。  彼は、そのままキスせずに、わたしに寄りかかった。  「え? あれ?」  抱きしめて、彼の背中を叩く。  寝息とか、そんな風じゃなくて、どこか、不規則な息継ぎが耳元でつづいていた。  膝が濡れている。  重くのしかかる直也くんを肩で押し上げると、彼の腹部から流れた血で、膝がぼっとりと濡れていた。  「……」  彼の顔を見つめる。  「最初に助けようとした時……もう?」  「さやかッ!」  聞きなれた声に、緩慢に首を向けると、たかちゃんがこちらに走り寄ってくる。  「ば……か……」  「せんぱい?」  荒く息をして、彼女は不安げにこちらを見下ろす。  「……たかちゃん、このばか任せた」  返答を待たず、彼女に向かって直也くんを押し倒すと、わたしは全力で走り出した。    「ええ……急いでお願いします……サイレンはいりませんから」  受話器をおいて、溜息をつくと、わたしはその場にへたりこんだ。  サイレンの音なんて聞いたら、頭がどうにかしてしまいそうだった。  気が付くと、床とか電話とか、開けっ放しのドアも、なにもかもが血だらけだった。  「そうか……わたしも、手を怪我してるんだった」  ごく当たり前の事実を、口にだして確認する。  ……掃除が大変だ。  そう思うと、ようやく、悲しくて泣きたくなった。  泣きたくなったのに、涙は流れない。  なんだか無性に甘いモノが欲しくて、ココアを煎れようと思った。  「……あれ?」  砂糖をたっぷりカップに落としたところで、流しに、直也くんのカップがあるのに気付いた。  
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