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「初恋だったんです」
唐突に男の子が言う。
「初恋?」
「はい、安野先生は僕の初恋の人でした」
少し照れくさそうに頭を掻きながら、頬を赤らめる男の子。
いいなと思った。
私の初恋はいつだろうとしばし考えて、思い浮かばないことに愕然とする。
私の初めての恋は、彼のように特別ではなかった。
誰が相手だったのか、いつ頃だったのかさえ思い浮かばない悲しい現実。
「羨ましいです」
ふいに発した言葉に、目の前の男の子が不思議そうに首を傾げる。
「私は初恋っていつしたのか思い出せませんから」
男の子は無言でじっと私の口元を見つめたまま、一言も発しようとはしない。
だから、「さようなら」と言ってその場を去ろうとした。
ふいにリンの顔を思い出したせいか、早く帰らなきゃいけない衝動に襲われる。
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