昼下がりの身勝手

13/30
前へ
/30ページ
次へ
「やっぱり似てます」 私の顔をじっと見ていた祐一君が爽やかに微笑む。 「僕の好きだった安野先生にすごく」 「ありがとう、ございます」 まっすぐな視線から逃れるように俯きながら、左手を隠すように右手を重ね合わせた。 祐一君に、左手の薬指にはまった指輪を見られたくない。 そんな気持ちが芽生えた理由は分からないし、考えたくもないけれど。 「あの、少しだけ時間ありますか」 その提案を、リンの母親ならキッパリ断るべきだ。 既婚者だとハッキリ告げるべきだと、知っている。 だけど、頭で分かっていてダメだと信号を送っていても、それを無視する場合だって、人間にはある。 危険だと立て札がしてあっても、ワザと道を踏み外すことだってあるの。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加