昼下がりの身勝手

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「リン、ママだよ」 ふわふわのほっぺ、体温の高い身体、サラサラの髪の毛。 全てが愛おしく、泣きたくなるほど大切。 その想いに変わりがないけれど、あり得もしない未来を考えてしまう瞬間がある。 夫も、リンも、今の生活全てを捨てて、祐一君と共に。 そんなこと起こるはずもないし、起こってもらっても困る。 だけど、ずっとこのままリンの世話をして生きていくんだと思っていた。 そんな私の目の前に突然現れた、新たな道。 甘い刺激、現実逃避。 全ては起こり得ないと知っているから、キラキラと眩しいだけ。 そもそも、祐一君みたいに若くてカッコいい男の子が私を好きになるはずがない。 「タタタタッ」 言葉にならない声を上げながら、突然駅に向かって走り出したリン。 「リン、待って」 履きなれないヒールで追いかけながらも、頭のどこかでも彼のことを考えている。 リン、祐一君、リン、祐一君。 比べている訳でもないし、どちらかを選ぼうともしていない。 だけど、もし祐一君に「全てを捨てて僕と一緒になって欲しい」と言われたら私はどうするのだろう。 リンを、今の全てを捨てられるだろうか。 バカみたいな想像。 起こるはずないことへの妄想。 下らない考えだと分かっていても、久しぶりの甘い刺激が胸の奥をキュッと締め付け続けるの。
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