昼下がりの身勝手

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「いつでもメールしてきて下さい」 囁くような低音の声を思い出す。 「もっと春花さんのことが知りたい」 本気にしてはいけない。 からかわれているだけだ。 何度、自分に言い聞かせてもドキドキとうるさい鼓動を抑えられそうもない。 「もう一度、会いたい。もう一度だけ」 その言葉に「私も」と返した時、別の道を歩く自分をハッキリと想像してしまっていた。 「なあ、醤油取って」 野太い声が前から飛んできて、ふと我に返る。 醤油を取って、夫に渡す。 それがまぎれもない現実。 トキメキもなければ、刺激もない。 甘い誘惑もなければ、恋の切なさや愛しさもない。 いや、今はある。 この胸を焦がすのは、彼だ。 今日出会ったばかりの、まだ名前とメールアドレスしか知らない祐一君。 彼の存在が私の胸を揺さぶり、この平凡でつまらないだけの日常を揺るがそうとしている。 怖がりなのに、ホラー映画を見たがるような。 高所恐怖症なのに、ジェットコースターに乗りたがるような、そんな感覚。 彼の手を掴んで走り出す自分の後ろ姿を想像して、打ち消す。 また想像して、すぐさま打ち消す。 ドキドキする。 ワクワクする。 これは、恋だろうか。 恋なのだろうなと認めると、更に胸が高鳴った。
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