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「春花」
こんな時だけ私を名前で呼ぶ。
その強かさとずる賢さに余計、嫌気がさす。
「抱きたい」
三年前なら、いや、一年前でもドキッとしたセリフが今はやけに白けて聞こえる。
「また今度にしよう」
永遠に来ないでほしいと思う今度という言葉で何とか逃れようとするけれど、夫は私の意見など無視して先へ進めようと手を動かし始める。
結局、私の気持ちなんて置き去りだ。
私がうんと頷いても、ううんと首を横に振っても結末は同じ。
それならば、私の気持ちや意思はこの世のどこにも伝わらないじゃないか。
暗闇で私の上に乗っかった男の影がワサワサと動く。
私の胸を触りながら、どこか遠くを見つめるような眼で私の少したるんだ身体を見下ろしている。
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