昼下がりの身勝手

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テレビを見ていた夫が、こっちを見ずに言う。 「やっぱりネギだよな」 朝の情報番組で、納豆に何を入れるかというアンケートコーナーを見ての意見らしい。 どうやら同意を求められているみたいなので「そうかな」と、どちらとも取れる相槌を打っておいた。 夫の足元で遊んでいるのは、先にご飯を食べ終えた一人娘のリン。 積み木を床にガンガンとぶつけながら、「アッ、アッ」と言葉にならない声をあげている。 さっき手づかみで食べたせいでご飯粒と人参が両手いっぱいに付いていて、そこらじゅうを汚しているけれど、朝からイライラしたくないから見て見ぬ振りを続けている。 そうだ、それよりも納豆。 夫は他愛もない会話の一つとして聞いてきたのだろうけれど、私がこの世で一番嫌いな食べ物が納豆だということを忘れてしまったかと疑いたくなってしまう。 納豆と何を混ぜるかなんて全くもって興味がない。 だって、もし無人島に漂流して、納豆しか食べるものがなかったとしても、私はそれを食べるつもりはないのだから。 「今日、ゴミの日だったな」 ご飯を食べ終えた夫は丁寧に「御馳走様でした」と手を合わせた後、玄関先に向かい壁にもたれかかっていたゴミ袋を掴んだ。 「多分、定時に帰って来れると思う。また連絡する」 「うん、分かった」 結婚3年目になれば、いってらっしゃいのチュウなんてお互いにとって煩わしいだけ。 軽く手を振って見送った後、すぐにドアを閉めて床にご飯粒をペタペタとひっ付けながら遊んでいるリンを「ダメでしょ」とようやく叱りつけた。
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