6人が本棚に入れています
本棚に追加
少し横に視線を向けると、可愛らしい寝顔のリンが見えた。
リン、リン、リン。
私はあなたの為ならなんだって出来るよ。
あなたの為なら、なんだって。
リンの為。
家族の為。
今を守る為。
不快しか感じない時間を耐えるために、必死に目を閉じて静かに時が過ぎるのを待った。
これは義務じゃない。
拷問だ。
感情の全てを置き去りにされた、ただの辱め。
「春花、いいよ」
真上で律動を繰り返す影を、薄めを開けて見上げる。
なんて滑稽で馬鹿らしく、空しい時間だろう。
今、ここには愛も情も存在しない。
夫の動きが速まるのに合わせて、ギュッときつく目を閉じる。
暗闇の中見えたのは、私の手を取る誰かの手。
しなやかで、筋張っている指。
若々しく、ハリのある皮膚。
きっと、祐一君だ。
彼が私を迎えに来たんだ。
そんな妄想をしながら、30分弱の短くも長い拷問を耐えきった。
最初のコメントを投稿しよう!