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10分後、寝息を立て始めたリンを布団の上に転がして、その横でやっと携帯を開く。
予想通り、彼からのメール。
『昨日からずっとあなたのことが気になって仕方ない』
まるでどっかのメロドラマみたいなセリフ。
夫に言われたら、「どっかで頭打ったの?」と鼻で笑ってしまうだろう。
それなのに、祐一君からのメールなら素直に受け取れるし、胸だって勝手にドキドキと鳴り出す。
『また会いたい』
立て続けに入ってきた短い文章に、心臓がドクンと反応する。
会いたいなんて言われたのは、いつ振りだろう。
夫と付き合っている時だって、そんなこと言われたことはないと思う。
『私、結婚していて、夫も子供もいるの』
答えを分かっていながら私は現実的なメールを返した。
『もっとあなたに早く出会いたかった』
祐一君は私の望む返事をくれる。
それによってトキメキという感情が沸々と蘇ってくる。
十代の頃、初恋の人に熱く胸を焦がした懐かしき日々。
教室の片隅で、図書館の端で、こっそりと熱い眼差しで見つめた瞬間。
ふいに目が合うと一瞬で頬は熱くなり、発火したように身体は熱を持った。
これは現実だろうか、それとも妄想なのか。
それすらもよく分からなくなる。
携帯画面を見ると、そこに広がるのは理想の世界。
甘い言葉と、甘い誘惑。
ピカピカと光る小さな画面が、疲れ切った私の心を解放してくれる。
もういろいろ考えることはやめようと思った。
今、したいことをしたいようにする。
それでいいじゃないか。
ずっと私を抑制していた鍵のようなものが、ガチャリと音を立てて外れた。
それが幸なのか、不幸なのか、今の私には良く分からないけれど。
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