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その日から、時間を見つけては小さな液晶画面を見つめ続けた。
洗濯の合間に、掃除機をかけながら。
夕飯のおかずをレンジでチンする数秒の時間に。
祐一君は私が望んでいる言葉を、望んでいる時間に的確にくれる。
「春花」と私の名前を何度も呼んでくれる。
それはまるで麻薬のよう。
与えられれば、更にもっともっと欲しくなる。
ぐずるリンにいつもなら分量を決めていたお菓子を、際限なく与え続け大人しくしている隙に祐一君とのやり取りを続ける。
『会いたい』
『好きだよ』
『君だけだ』
もう一生、誰からも言われることがないと思っていた言葉が、画面に現れる。
「ママー」
携帯ばかり見つめている私の足元で、我が子の泣き声がする。
お菓子のカスを掌いっぱいに付けたリンが、ソファの間に挟まった玩具を指さしながら、「アッ、アッ」と甲高い声を上げる。
「はいはい、後でね」
柔らかい髪を撫でながら、足にまとわりつくリンの身体をやんわり引き離す。
「ママは忙しいの」
リンの存在を確認しながらも。決して視線は画面から外さない。
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