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「ママー、ママー」
大粒の涙を流しながら、リンが手足をバタつかせ私を苛立たせる。
「分かった。後でするから」
上の空で返事をしながら、したくもないのにトイレに向かい、バタンと扉を閉じた。
遮断される現実。
一畳半の狭いそこは、祐一君と二人だけの世界になる。
『僕はきっとあなたに出会うために生きてきたんだ』
祐一君がくれる言葉にうっとりしながら、便座に座ってフッとため息を吐き出す。
ドアの向こうからは、いまだに続くリンの泣き声。
私を呼んでいる。
それは確かに聞こえている。
分かっている。
ちゃんと耳には届いている。
だけど、その声では突き動かされない。
リンが何より大切だという気持ちはきちんとあるけれど、遠くかすんでどこにあるのか今はハッキリと見えない。
見えない。
見えない。
いや、見ようとしない。
だから、見えない。
それは、もうないということと同じなのだろう。
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