昼下がりの身勝手

26/30
前へ
/30ページ
次へ
「このポテトサラダだってスーパーのだろ。あと、この唐揚げだって冷凍食品だし」 「……」 「別に責めているわけじゃないよ。ただ最近、ずっとこんな感じじゃないか。リンもお菓子ばっかり食べてご飯は全然食べてないみたいだし。もうちょっと母親らしくしろよ」 母親らしく。 妻らしく、女らしく。 その言葉のどこにも、『私』はいない。 私の周りにいる人は、誰も私を私として見てはくれないの。 「もういいよ」 思わず、ポツリ本音がこぼれた。 「何がもういいんだよ」 不機嫌な夫の声に、返事を返さずに首を横に動かす。 「もういいの」 私は今までの私を辞めるから。 母親も妻も、何もかも捨てて祐一君と生きていく道を選ぶから。 だから、もういいの。 フフッと小さく笑った私を、夫は奇妙なものを見るみたいな目で見た。 蔑むように、憐れむように。 この人に、好きな人が出来たと報告したらどんな顔をするだろうとふと想像してみる。 ずっと携帯を手放さないのは、ネット依存ではなくて好きな人とメールのやり取りをしているからだと言ったら、なんて答える? 怒る?泣く?騒ぐ?わめく?叩かれる?無視される? きっと、この人は、何もしないだろう。 「ママー」 リンの甲高い声が脳内に響いて、一時空想が中断する。 「ほら、しっかり食べて」 テーブルの上に散らばったご飯粒をかき集めて、小さな口にいっぺんに放り込んだ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加