昼下がりの身勝手

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携帯電話を持ったままスッと立ち上がり、いつものごとくトイレへ閉じ篭ろうと背中を向けた瞬間、ギャッと大きな泣き声がリビングに響いた。 その声に反応し、急いで振り返って、思わず言葉を失う。 「リン……?」 何が起きたのか分からず、なんて言葉をかけていいのか分からない。 リンの顔が、真っ赤なクレヨンで塗られている。 それはパッと見てクレヨンと分かるのだけれど、真っ赤な血のようにも見えて、思わず背筋がスッと冷たくなった。 「ママ、ヤダ」 「……」 「トイレ、ダメ」 「……」 「ここにいて」 リンの瞳から大粒の涙が、ポロポロこぼれる。 ポロポロと、いくつもいくつも。 「リン」 久しぶりに娘の目を真っ直ぐ見たかもしれない。 こんな顔をしていたのだろうか。 不安げで、寂しげで、今にも壊れそうな。
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