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「じゃあ、お願いします」
ベビー麦茶とおやつ用のビスケット、オムツの替えとお尻拭きの入ったトートバッグを母親に預け、抱っこしていたリンを玄関先に下ろす。
その瞬間、「ギャア」と大粒の涙を零しながら泣き出した。
「リンちゃん、どうしたの?」
母親が必死であやそうとするけれど、リンの泣き声は大きくなるばかり。
一向に泣きやむ気配はない。
私の足にしがみつきながら、涙と鼻水を垂らすリンを両手で引き離し母親に無理やり押し付けた。
「じゃあ、予約の時間があるから行くね」
リン、いい子で待っていてねと嫌々と横に首を振るリンの柔らかい髪の毛を数回撫でた後、すがりつくリンを振り払うように玄関のドアを開けた。
バタンと音がしてドアが閉まる。
木製の板の向こうからは、まだリンの泣き声が聞こえる。
ワンワンと私を求める声。
可哀想、今すぐ抱きしめてあげたいと思う一方で、やっと解放されたという安堵が同じ重さで胸を押しつぶす。
久しぶりに履いたハイヒールの踵を鳴らしながら、玄関先の階段を下りる。
その音が、疲労しきった体とくたびれた心を一気に軽くしてくれた。
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