6人が本棚に入れています
本棚に追加
スキップをするような軽やかな足取りで、電車に乗り駅前の美容院へと向かう。
三ヶ月に一度、疲れた主婦から普通の女に戻る瞬間。
「いらっしゃいませ」と若くてお洒落な男の子に笑顔で出迎えられると、更に胸は高鳴った。
「今日はどんな感じにしましょう」
担当の男性スタッフが伸びてまとまりのなくなった髪を触りながら、鏡越しに微笑む。
その目線が少し照れくさくて、手元の雑誌に視線を落としながらボソボソと小さな声で答える。
「長さは変えずに重さを取って欲しくて。あと明るめの茶色にカラーリングして下さい」
「分かりました。前髪はどうなさいますか」
目が隠れるまで伸びた前髪を指先で触りながら、数秒考え込む。
前髪を切るか伸ばすかで、顔の印象はかなり変わる。
女にとっては、とても重要で大事なこと。
だけど、夫は今日私が美容院に行ったことさえ気づかないだろう。
出会った頃から、そういう人だった。
悪い人じゃないの。
ゴミ出しは欠かさずしてくれるし、休みの日にはリンの面倒だって見てくれる。
気が向いたら、流しに溜まった皿洗いもしてくれる。
良くも悪くも普通の人。
きっと世界中の人一人一人に点数をつけたら、平均点をつけられるようなそんな男。
最初のコメントを投稿しよう!