6人が本棚に入れています
本棚に追加
「やっぱり、前髪切ると印象がガラッと変わりますね。随分若く見えますね」
美容師の分かりやすいお世辞に、ついつい頬を緩めながら壁に掛けられた時計で時間を確認する。
毎日、リンと過ごす一時間は死ぬほど長く感じるのに、今日のような自由な時間はあっという間に過ぎていく。
残りは1時間半。
その事実にホッとするのと同時に、寂しくもなる。
リンに会いたい。
この胸に早く抱きしめたい。
その想いで、全て埋め尽くされてしまえばいいのに。
「ありがとうございました」
担当スタッフの礼儀正しい見送りを背に受けながら、ドアを開けて外へ出る。
少しだけ軽くなった髪の毛、明るくなった髪色。
それだけで少し若返った気がして、独身の時のような気持ちが舞い戻ってくる。
まだもう少しだけ時間はある。
贅沢は出来ないけれど、どこかでお茶位なら。
そんなことを考えながら、新作の洋服が飾られているウィンドウに視線を向けた。
背中に大胆なスリットの入った華やかなワンピース。
小さくため息を吐き出した後、意味もなく笑いがこみ上げてくる。
この服を着こなせる体系でもないし、お金もないし、着ていくところもない。
なのに、どうして欲しいなんて思ってしまうのだろう。
髪を切ったばかりだから気持ちが少し大きくなっているのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!