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ウィンドウに映るのは、いつもと変わらないくたびれた自分。
良く似合うと言われた短めの前髪だけが、やけに浮いて見えて一気に恥ずかしくなる。
何、やっているんだろう。
早く行かなきゃ。
リンを迎えに行って、夕飯の支度をして、お風呂に入って、絵本を読んで、9時前には寝る。
いつもの生活に、早く戻らないと。
少しだけ曇ってきた空を見上げ、そうだ、洗濯物も取りこまなきゃと思った時だった。
「安野先生ですか」
背後から若い男の声がした。
私は安野という苗字でもないし、ましてや先生でもない。
多分、勘違いだろう。
それか、聞き間違い。
そんな風に結論付けて、駅へと歩き出そうとした私の肩に背後から手が伸びてくる。
そして、再び「安野先生ですよね」という声。
「違いますよ」と言いながら、振り返った先にいたのは、声から想像していた以上に若い男性が一人。
私の顔を窺うように凝視している。
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