ストライク

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朝七時。 エメラルドグリーンと黄色のチェック柄の制服を着て、 彼の寝顔を見ながらちゃぶ台で化粧をし終え、会社に向かう。 会社には既に男性社員以外の全員が出勤していた。 窓際の壁にかけられたホワイトボードは本日の予定表。 私は内勤、と書かれたマグネットを自分の名前の横に付けた。 男性社員の名前の横には、 訪問取り立て、とある。 男性社員は訪問取り立てがメイン。 テレビでよく見る、 ドアを激しくノックして 『いるんでしょー!?○○さーん、借りた金は払おうねーきいてんの○○さーん!!』 というあの取り立ては身に危険が及ぶ可能性があるので女性には出来ない。 だから消費者金融会社とはいえども、 内勤の女子は至って普通の事務仕事が主なのだ。 代わり映えのない会話が毎日、エアコンの強風のなかに冷ややかに響く。 みんながみんな、溜息をついて、あるひとは隣の席の同僚と愚痴を言っている様子だけど、 強風に流され、音という音すべてはエアコンと換気扇のフィルターに付着してやがてなくなる。 「ボーリン、昨日、偏頭痛だったって?大丈夫?なんか、偏頭痛て意外と怖いらしいよねー」 昼休憩、更衣室の隅でウインナー入りパンを食べていたところで サンちゃん先輩が重役出勤してきた。 「あ、はは、ありがとうございま…う」 「えー?てかなんでロッカールームで食事?ウケる」 仕事より他愛ない会話、の人種。 なかなか着替えを始めず視線を私の全身に泳がせているので(ネタ振れよ、というあの目。芸人でもないのに貪欲だ)、 私は語尾をパンの上で濁してしまった。 仕方なく、 マイタバスコをパンに垂らすことに夢中になってんだよ、と 気付かせるようなスタンスでタバスコの瓶を強く振ってみせる。 するとサンちゃん先輩はやっと、 苦笑いしながらたらたらと着替え始めてくれた。 ストッキングの匂いと香水の匂いが充満する。 サンちゃん先輩は同い年だが、 こういうのが熟女の香りなんだと思う。 ストッキングを纏ったふくらはぎが話すたび揺れるのを私はただ眺めた。 サンちゃん先輩のマシンガントークで更衣室が暑い。 「あ!!!ボーリンには教えたっけ?あたしバツ3なんだぁ、この歳で!!やばいよねアハハ」 教えたも何も あなたのあだ名はその数字まんまじゃないですか。 だがそんなツッコミが出来る技能もなく、 「あは、聞きました、前に」 と空笑い。
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