ストライク

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仕事が終わったのは十時だった。 事務なのに定時で帰れない仕事なんて最悪…と みんなが愚痴愚痴たらたら着替えるなか、 私は制服のままで会社を後にしてコンビニで弁当を買って帰路につく。 いちいち着替えるなんて馬鹿くさい。一分一秒でも会社から早く出たい。 家に帰ると、彼がヘッドフォンで音楽を聴いている。 どことなくいつもと違う様子、 うなだれている感じ。 爆音で聴いているのだろう、 かすかに聞こえる根暗なロック。 だが、何年も同棲するとこんな些細なことは気にもならないので、私は無言でコンビニ弁当を手渡し 隣に座って昨日の続きのゲームを始めることにした。 ロードして一番上のデータは 先にクリアした彼のデータだ。 私は二番目のデータを呼び出す。 このゲームはRPGなのだが、 昨日からどうしても話が進まず、次のステージに行けない。 「あー!なんだこれ、進まないし」 何かをし忘れているのかもしれない。 仕方なく無理矢理彼の耳からヘッドフォンを外して尋ねてみた。 「ねえねえ、これどーすんの」 彼はうざったそうに答えた。 「えー?何。これ? あーなんだっけ。 たしか、あそこの国の姫んとこに一旦行って話聞くんだよ。それで進むから」 そしてまたヘッドフォンを戻す。 「え?どこの国よ、ここ?ここ?ね、こっち?」 だが私は早く話を進めたいので再び彼のヘッドフォンを外し尋ねた。 すると、彼のうざったそうな顔はまじでうぜえの顔に変わるのがわかった。 「つかうるせぇ聞いてんだからさ」 出た。 脳が膨張したような感覚。 彼の声が、一瞬にして怒りが私の身体を満たす。 静まり返る部屋。 …あぁ、これだもんなぁ。 耐え切れず私は鞄を取って玄関を飛び出した。 「おい、出てくとかそういうのまじめんどくさいからやめて」 後ろから声がしたが 聞かないふりで。 あああ、こういうのがいやなところだ。 まあ私が身勝手なのだけど、 にしても借金まみれで頭も悪いくせに何も言わない優しい私に この仕打ちですか。 あいつ調子のってるわ絶対。 路地に飛び出して歩き煙草をしていると、 そんな思いが腹いっぱい込み上げてきた。 だめだ。コンビニですこし、頭を冷やそう。 私は煙草を携帯灰皿に押し込んで歩き続けた。
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