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「よかった」
亜里沙は後部座席のシートに身を沈めて胸をなで下ろした。
閑静な住宅街の片側一車線の道路を順調に走行していると、信号が赤に切り替わったわけでもないのに運転手がバン!とペダルを力強く踏んで車を急停止させた。
「痛い!」
亜里沙は前方の運転手の座席に思い切り鼻をぶつけた。
「大丈夫か亜里沙?なにやってるんだ!」
「す、すいません。猫が急に飛び出してきたもので……」
ご主人の叱咤で運転手の体は小さくなり、恐縮しながら何度も頭を下げる。
窓から外を見ると難を逃れた三毛猫がブロック塀によじ登って呑気に後ろ足を器用に使い、顎の下を引っ掻いていた。
「いいわよ、早く行きましょう」
少し口を尖らせながらも亜里沙が運転手の判断を許した。
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