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私の気分とは裏腹に、卒業式当日は目も眩むような快晴で、だけどまだ…春は遠くて、外に出ると指先が冷たくなった。
「おはよ」
「…あれ?」
「最後だし、一緒行こ」
玄関先で待ってた遼君が、ぎゅっと私の手を握って『つめたっ』って笑う。
「…ふふ、遼君いつも体温高いよね」
遼君の手はいつもぽかぽかしててあったかい。
「…なんかそれ遠まわしに暑苦しいって言ってる?」
「言ってない」
遼君の横顔がいつもと違って、ちょっと凛々しく見えてし、ばらくしてその理由に気がついた。
「…遼君髪切った?」
「うん。気づかれないまま学校着いたらどうしようかと思った」
「ごめん…」
遼君の学ラン姿も今日で最後なんだなぁって思うと、本当に今日でいろんなことが終わっちゃうんだって式の前にちょっとセンチメンタルな気分になる私を見て、遼君がくすっと笑った。
「・・・なに?」
「口、尖ってる」
「…だって・・・///やっぱり寂しいね、卒業って…」
「俺は嬉しいけど」
「・・・」
「…あ。別に変な意味じゃないよ。純粋に、ね」
あれから先生と言葉を交わしてない私。
きっとそれは遼君も同じで、そのことに触れないことが逆に不自然な空気を作ってしまってるって分かってても、どうしたらいいのか分からなかった。
「…菜緒、今日さ……」
「…ん?」
「式終わったら俺、門のとこで待ってるからちゃんと大ちゃんと話してきたら?」
遼君は少し俯きながらそう言って、寂しそうに笑って私を見た。
「ちゃんと、さ…菜緒の中でも終わりに出来るように、…ね?」
忘れて欲しい、とか
俺だけを見て欲しい、とか
そんなこと私にひとつも言わない遼君の精一杯の『終わりにして欲しい』が、乾いた3月の空気に混じって、ぴゅぅっ…と吹き抜けていった。
ぞろぞろと廊下に出来る列の中で、最後の最後まで話題になるのはやっぱり先生で、切なくなるから聞きたくないのに、どうしても耳に入ってきてしまう。
「今日大ちゃんスーツらしいよっ」
「うっそマジで?!!」
「見た見た!!超ヤバイよ」
「もー忘れられなくなるからやめて」
「つーか式どころじゃなくなるからやめて」
忘れられなくなる、なんて…
冗談でも言わないで……。
そんなふうに笑えるくらいなら、最初から涙なんか出ない。
本気で忘れるつもりなら、死にたいほど好きになったりもしない……。
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