卒業

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隣に立った先生が、咥えてた煙草を足で消して『…遅ぇよ』って笑う…。 「…俺のこと探してる姿、めっちゃ可愛いし」 先生… 「もうさ、いっそそうやってずっと俺のこと探してる?」 先生…… 「卒業した後も、ずっと」 先生…ッ…… 「何泣いてんの。どーゆー意味か分かってんの?」 分かってる…。 「…分かってねぇよ全然」 「分かってるっ…」 「会長ちゃんには無理でしょ…」 「…、せん…せ」 「…んー……?」 「先生ッ…」 「なぁに」 このまま時間が止まってしまえばいいのに……。 触れたいのに触れられない。 触れて欲しいのに恐くて近づけない。 先生を、忘れられなくなりそうで…恐い。 先生の指先にそっと頬を撫でられて、噛みしめた唇が愛しさに小さく震えた。 「よしよし…、泣かないの」 「子供、扱い…しないでッ……」 「されたくなかったら泣くなよ」 先生の指は、最後の最後まで なんて優しくてなんて… 残酷なんだろう…… 先生の掌の感触を覚えていたくて、そっと両手で先生の手に触れた。 あの時…『恋人繋ぎだっけ?』って、手を握ってくれたのが…嬉しかった。 泣きそうな私の頬を、指でくすぐってくれたのが嬉しかった。 いつも… 伸びてきそうで私に触れない先生の手が、すごく愛おしくてたまらなかった。 ぎゅっ、て先生の手を胸の前で握ると先生がその手に力を入れたのを感じた。 「…ねぇ先生、……私がもっと大人だったら…好きになってくれた?」 先生が、苦しそうに息を吸い込む音。 それだけで… 涙はどんどん溢れて…… 「……そんなこと聞くなよ…・・・頼むから…」 …どうして? だって… 先生の傍にいれないのは、私が生徒で先生が教師だからであって欲しい…。 大人になるのなんか待てなくて 大人になんてなれなくて だからせめて、そう言って欲しいだけ。 だけど『…どうかな』ってはぐらかされるのも嫌な私は… 結局、先生になんて言われても嫌なんだ。 本当に欲しい言葉は、きっともらえない。 「先生の手どぉすんの、このまま持って帰る?」 「もって…帰る……ッ」 「ふふ…、そんで?焼いて食べる?」 「食べない…ッ」 「んふふっ…、でも先生ねぇ手ないと困るのよ」 「こっから…先だけでも、いい…」 「恐いこと言うね。そっから切ったら先生の手動かないでしょ」 「でも欲しいのっ…、っ……先生が、欲しい…ッ」 離れたくない。 放したくない。
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