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懐かしい記憶を辿るみたいに、先生の手を思い出したくなんかない。
今にも離れていってしまいそうな先生を引きとめるように、ぎゅぅっ…と両手の中で先生の左手を抱きしめた。
放したらもう…終わっちゃう。
咲いたばかりの桜がすぐ風に散らされるみたいに先生との時間が、通り過ぎてしまう。
「…動かない手なんか貰ったって嬉くねぇでしょ」
面白そうにふふって笑った先生が、右手でシルバーのネクタイをしゅっ…とゆるめてシャツのボタンを上から2つ外したら、先生の首には、弓矢を引いたような形の綺麗なネックレスがさがってた。
…予約済みだって誰かが言ってたネックレスが
まだ、先生の首元を…飾っていた。
「手はあげれないからね、これで我慢して」
片手で器用にそれを外した先生が、私の目の前でそれをキラキラ揺らす。
「つける?」
「…ぅ…ッ、いらなっ……」
「…まぁそー言うなって・・・菜緒ちゃんの為に取ってたんだよ?」
…菜緒ちゃんなんて……どうして呼ぶの…?
今まで、一度だって…
そんなふうに呼んでくれたことなんて、ない…のに、なんで……ッ…
最後の最後に、私のこと…
生徒じゃなくて女の子にするなんて
酷い…よ……
力の抜けた両手から先生の左手がするりと抜けて、先生の手が首の後ろに回るとセーラーの襟元に、射手座のマークの弓矢が光って揺れた。
「…あら、かわい」
先生のバカ…
先生のバカッ…
細いチェ―ンが鎖骨をくすぐって、揺れる小さな弓に指で触れると先生が私を見て笑ったような気がした。
「…嬉しい?」
「……嬉しく、ないっ」
「嬉しいくせに…」
「先生は…無神経だよっ……」
「いいじゃん、このくらいしたって罰当たんないでしょ…」
「…当たるよ、大当たりだよ」
「んふふ…、大当たりならいいじゃん」
「分かってないよっ先生は…」
「分かってないのはおまえだよ」
…だって、分かんないよ。
先生の考えてることなんて、ちっとも分からないッ…
子供扱いするんなら、ちゃんと子供の私に分かるように教えてよ……っ!!
「…分かったから……ごめん、そんな顔すんなよ」
先生の困って笑う顔…
私、大好きだった。
笑った時に細くなる目も、馬鹿みたいに子供っぽいとこも、いつもちょっと淋しそうに口の端を上げるとこも
全部、…全部・・・
きっと
ずっと…忘れられない。
ずっと
ずっと・・・・・
「…分かってるから、・・・・・はよ行け」
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