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哀しい夢みたいに思い出したくないから
寂しいばかりの恋にしてしまいたくはないから
先生の優しい笑顔をちゃんと思い出せる自分でいたいから
『何も言わないで行くのが正解だよ』って強い私がこっちだよって呼んでる気がした。
さよなら、も
有難う、も必要ない。
もと来た道を、戻ればいい。
階段を駆け下りて、渡り廊下を渡って、静かな廊下を走って、時間を…巻き戻す。
大きく深呼吸をして、涙を拭いて、先生から貰った秘密の弓を
そっと…鞄の奥にしまった。
校門には在校生達に囲まれてすっかり困り果ててる遼君が、学ランのボタンはもちろん、シャツのボタンまで根こそぎもぎ取られ、ズボンのベルトまでない様子で、まさに今鞄をめぐってもう一戦ってところで…
彼と、目が合った…。
…そう。
彼はいつも、こうしてすぐに…私を見つけてくれるんだ。
「…菜緒、っ……」
私を抱きしめた遼君の声は少しだけ、…震えてた。
「・・・はぁ…、……良かった…」
「…遼君、……ごめんね」
「何も言わないでいいよ…」
「…でも」
「大丈夫、俺も頑張るから……。少しずつやっていこう?……な?もう俺は…菜緒が戻ってきてくれただけで、それだけで…、十分だから……」
欲しかったのは先生の手。
だけど、振り払われた手を優しく捕まえてくれたのは遼君の手だった。
ズルくてみじめな私のこと、忘れられない恋と一緒に抱きしめてくれて
まだ…
涙は止まらないかもしれないけど、あと何回か…朝を迎えて
同じだけ…眠れない夜を越えたらきっと、大切に…できる。
そう思った。
おかしな二人だと笑われるかもしれないね。
だけど、ためらうことなくこの手を繋げるいつかがくるように、あんな時もあったねって遼君とならきっと…
そんな夢を
私は見れる。
~fin~
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