あんなに一緒だったのに

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 「またこの夢か……」  全てを思い出して幸二は眼を開き、頭の意識をハッキリさせてから呟いた。そうして今から3年前のあの熱かった夏に想いを馳せる。  それは東野幸二が競技は違えど三度(みたび)目の栄光をその手に掴んだ記念日で、そして忘れる事の出来ぬ最悪の悲劇が起きた日だった。  「あれから……あの悪夢から3年…………舞、ボクはどうすれば良いのだろう?」  舞への忘れ得ぬ想いは未練となり、その挙げ句の果てを鑑みて幸二は、自らを最大限に自嘲する。  そこへ……  「そう自分を卑下する事はないんですよ」  自分1人しか居ないハズの空間で、不意に掛けられた声。  そちらに視線を移せば、仄暗い中部屋の壁に浮かび上がる緋く巨大な唇。  その不可思議極まりない現象に、戸惑いはするも、神経の強靭さでは象が踏んでも壊れない強度を誇る幸二にはさほどの事でなく、ただ普通に会話の相槌を打つ。
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